yabusame

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静寂な真っ黒な世界を
一対の馬と人とが走っていく、流鏑馬。
── 何もない空の領域。
その比類なき美に迫る、
初めてのフォトストーリー。

疾駆する馬上から矢で的を射抜く、流鏑馬(やぶさめ)。6世紀の故事にルーツがあるとされ、武芸の競技である以上に、射手には高い精神性が問われ、身につける装束は必ず伝統的なものが使われるという神事です。

国内外のスピリチュアルな風景を撮影したり、映画やテレビ、舞台演劇などの撮影を手掛けている古田氏は、もともと日本の武道にも興味を持っており、あるきっかけで2016年4月に鶴岡八幡宮の鎌倉まつりで行われる流鏑馬神事を見る機会を得て、すっかり流鏑馬の虜になったと言います。その時に夢中で撮影した写真がきっかけで、鎌倉市観光協会や大日本弓馬会からの協力が得られ、武田流の神事へ同行しての撮影が始まりました。

本書は、全国4か所での流鏑馬神事の情景を迫真の描写力でまとめあげた、珍しいフォトストーリーです。祭事の前の準備の時間、独特なカラーハーモニーで彩られた装束や馬具、そして見た目よりずっと狭い馬場へ風のようにアプローチし、上下動をしない美しい姿勢のまま、あっという間に3つの的を居抜き翔けすぎる射手。膨大なカットから選ばれた約140枚の写真には、厳かななかにも緊迫した雰囲気、祈りを支える様々な様式美、剣の作法にも似た美学、馬や矢の威力の凄まじさなど、目で見えない流鏑馬文化の深奥が熱く編み込まれています。

馬の動きは、19世紀の写真技術黎明期に好んで撮影が試みられたモチーフのひとつですが、古田氏があえて被写体と普段向き合っている話法と変えずに挑んだ、という撮影スタイルによって、馬や人の素早い動きと躍動感などが、むしろ写真本来の面白さや美しさをくっきり浮き立たせる興味深い帰結を生んでいます。しかも、人と自然を愛し撮影し続けている彼の作り手としての美質が、歴史や祈りのニュアンスを帯びた神事に裸の目線で向き合いながら一層輝いていることも見逃すべきではないでしょう。

公益社団法人 大日本弓馬会・武田流が2019年に設立80周年をむかえたことを節目とし、国内外から手軽に見ていただきやすいよう電子書籍として刊行することになりました。場面のシーケンスやリズムを大切に考えて組まれたデザインも古田氏が手掛けたものです。

【刊行概要】
タイトル : 「YABUSAME」
著者・デザイン : 古田 亘(写真家 / アートディレクター)
版元 : TYPHOON BOOKS JAPAN
形式 : EPUB(フィックス型)
対応端末 : 電子ブックリーダー、Android、iPhone、iPad、デスクトップアプリ
ページ数 : 208ページ
税抜本体価格 : 2,000円
刊行期日 : 2020年7月10日(金)
発売 : Kindleストア、ibookstore、ebookjapan、honto、koboイーブックストア、Booklive、kinoppy 他、主要電子書店

古田 亘(ふるたわたる)
写真家 / アートディレクター 1971年、静岡県静岡市生まれ。CICカナダ国際大学を卒業後、コンピュータ会社の株式会社SCSKに就職。営業・宣伝の仕事を経て映像制作会社に転職。制作会社にて様々なメディアコンテンツのプロデュース、ディレクションを手がけた後、2001年に独立。浅野忠信初監督作品「トーリ」(‘04年)のプロデュースや、サーフドキュメンタリー映画「アドア」(’07年)の監督として注目を集めた。テレビ番組、舞台演劇、映画などの写真、デザイン、映像演出を数多く手掛ける。2016年からは個展、写真集の刊行をはじめる。主たる写真集に「少年と海」「Green Gate」「Israel」「小松準弥『君』」など。2015年BS-TBS功労賞、2016年JPS日本写真家協会優秀賞。
https://www.watarufuruta.com

「流鏑馬」とは、疾駆する馬上から左横に置かれた3つの的を射る神事です。6世紀に欽明天皇が現在の大分県・宇佐神宮において矢馳馬(やばせめ)として3つの的を射らせたことにルーツがあるとされており、平安時代には、宇多天皇が弓馬を極めた源能有(みなもとのよしあり)に命じて「弓馬の礼法」を定めさせました。

1187年、天下平定を記念し神事流鏑馬の故実にならって流鏑馬を奉納したのが源頼朝で、彼は弓馬の達人を集めて話し合いを行わせ、流鏑馬の式法を定めるなどして、その隆盛に多大な貢献をしたといいます。「流鏑馬」は、単に武芸を競うものではなく、天下泰平、五穀豊穣、万民息災を祈念して的を射る精神性の高い祭事であり、厳しい修業を積んだ者だけが「流鏑馬」の出場者=射手になることができます。

射手は「立ち透かし(たちすかし)」と呼ばれる日本にだけ伝わる極めて優れた乗り方を身につけています。脚で馬体を挟まず、腰は鞍に触れずに紙一重で浮かせるというもので、習得が大変難しい技術で、この乗り方により、射手は疾駆する馬上でも上半身が上下動しない美しい姿勢を保ち、的を正確に狙うことができます。

射手装束や馬具も独特のものが用いられており、特に和鞍と和鐙は現代では製作技術が絶えていることから、骨董品を補修しながら使用してその伝統を継承し続けています。

参考 : 公益社団法人 大日本弓馬会
ホームページ http://yabusame.or.jp